【標題】
BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシンの総称)の摂取による、運動に由来する疲労感をやわらげる機能に関する研究レビュー
【目的】
BCAA(バリン、ロイシン、イソロイシンの総称)の摂取による、健常成人の運動による疲労を軽減する効果について、ヒトを対象とした臨床試験論文のシステマティック・レビューを実施し、効果について検証した。
【背景】
身体活動・運動分野における国民の健康維持のための取組みとして、健康日本21(第二次)に基づき「健康づくりのための身体活動基準2013」および「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」が厚生労働省により策定された。身体活動を増加させることにより、糖尿病をはじめとした疾患の罹患リスクを減少させることができるという報告に基づき、国民の健康維持だけでなく健康寿命の延長のためにも運動が広く推奨されている。
身体的な負荷を伴う運動は、身体能力や運動強度に関わらず、全身の倦怠感や筋肉痛に代表される筋肉の不快感等の疲労をもたらすことがある。それらは運動の直後のみでなく翌日や翌々日にも強く出現し、運動実施後数日間継続することもあるため(Negro et al, 2008)、運動の継続を妨げたり、日常生活における生活の質(QOL)を低下させたりする要因にもなりうる。したがって、身体活動に伴う疲労を軽減することは、健康の維持および増進に有益であると判断した。
必須アミノ酸の一部であるBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシンの総称:以下省略)は、身体活動に伴う疲労を軽減する効果が期待されている。疲労には主に中枢神経系に由来するものと、身体の局所または全身的に生じるものとがあるが、BCAAが中枢神経系に作用し、疲労を低減させる可能性については以前から指摘されてきた(Hutson, et al, 2001)。一方で運動時に摂取したBCAAは、運動後、数時間から数日後に発生する遅発性の疲労を緩和させることも報告されており(Negro et al, 2008)、BCAAは運動に伴う中枢性疲労にも、身体的な疲労にも軽減作用を有する可能性が期待される。しかし、摂取の時期や対象者、運動負荷条件により、様々な結果が報告されている。そこで、本研究レビューでは、BCAA が健康な成人の運動による疲労の軽減に及ぼす影響を検討した研究を調査し、定性的にまとめることとした。
【レビュー対象とした研究の特性】
PubMed、J-DreamⅢ(JSTPlus)、医中誌Webの3つのデータベースを情報源として文献検索を行った(最終検索日2020年10月24日)。その結果、計350報の文献が検索され、事前に定めた採用基準に基づいて選抜した結果、計23報が採用された。最終的にこのうち4報の文献を評価した。
【主な結果】
採用された文献4報のうち、3報において、BCAAを2.0g以上摂取することで運動に由来する疲労感を有意に低減する機能が認められる結果が得られ、2報では有意差は得られなかったが疲労感の低減傾向が認められた(1報について運動前摂取群と運動後摂取群の2群あり)。本研究レビューでは、採用文献4報中1報が外国人、3報が日本人の、それぞれ疾病に罹患していない健常成人を対象としており、BCAAの摂取による運動に由来する疲労感をやわらげる機能は、科学的根拠があると判断した。
【科学的根拠の質】
本研究レビューの限界としてメタアナリシスを行っていないため、出版バイアスについての定量的な評価は実施できていないことが挙げられる。しかし、運動に由来する疲労感については、対照群との比較により、4報中4報で肯定的な効果が認められたことから十分なエビデンスを有していると考えられる。したがって、さらなる研究によるエビデンスの充実は必要ではあるが、BCAAの摂取により運動に由来する疲労感を低減する機能を発揮することの有効性が示唆された。 |